
みちる先生、メンタルヘルスって何でしょうか?

メンタルヘルスとは『心の健康』のことですよ。最近は、職場を取り巻く環境が大きく変化していますから、職場のストレスによってメンタルヘルスに不調をきたす人が増えていますね。
増加する職場のメンタルヘルス疾患
メンタルヘルス(心の健康)の問題は、今たくさんの企業で、労務管理上の悩ましい問題となっています。
厚生労働省の3年毎の精神疾患を有する総患者数の調査によれば、その患者数は増えており、平成26年の調査では400万人に迫る勢いです(下図参照) 。
出典:厚生労働省
なぜ、これほどまでに精神疾患の患者数が増加しているのかはわかりませんが、厚生労働省が労働者に行った健康状況の調査結果によれば、職場生活で強い不安や悩みやストレスを抱えている労働者は実に6割に及び、またその原因に「職場の人間関係の問題」をあげる人が最も多くなっています(下図参照)。
出典:厚生労働省
また、公益財団法人日本生産性本部が、上場企業に行った 『メンタルヘルスの取り組み』に関するアンケート調査結果によれば、心の病については、30代と40代が3割を上回り、40代が最も多かったのですが、最近では10代〜20代の若者も3割に届く勢いとなっています(下図参照)。
特に心の病の中でも「うつ」については、ストレスや悩みなどから誰でもなる可能性がありますので、会社は、労働者のメンタルヘルスについて、労務管理上の問題として、真剣に取り組まなければならない状況となっています。
出典:日本生産性本部アンケート
平成29年度の過労死等の労災補償状況
厚生労働省は、過労死等の労災補償状況として、過重仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や、仕事による強いストレスなどの原因で発症した精神障害の状況について、平成14年から、これの労災請求件数と、実際に業務上疾病と認定した労災保険給付を決定した支給件数等を年1回まとめています。
ここで「過労死」は、業務における過重な負荷による脳血管疾患若しくは心臓疾患を原因とする死亡若しくは業務における強い心理的負荷による精神障害を原因とする自殺による死亡をいいます。
下の図1-1は、平成25年度から平成29年度までの過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患によって労災請求された件数と実際に支給決定された件数です。
このデータによれば、平成29年度の脳・心疾患で労災請求された件数は840件でしたが、実際に支給決定された件数は253件(30.1%)に留まりました。
一方、下の図2-1は、平成25年度から平成29年度までの仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害によって労災請求された件数と実際に支給決定された件数です。
このデータによれば、平成29年度の精神障害で労災請求された件数は1,732件でしたが、実際に支給決定された件数は506件(29.2%)に留まりました。また、精神障害で労災請求される件数は年々増加していることも分かります。
いずれの場合も、労災請求に対して3割前後しか認められていないことになり、まだまだ認定されるのには厳しい状況にあることが分かります。
出典:厚生労働省
出典:厚生労働省
ところで、一般的には1か月の残業時間が80時間以上になると過労死が認められると言われています。
しかし、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患の場合にはそのようなことが言えますが(表1-6)、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の場合には、時間外労働時間が80時間未満であっても労災が認定されている状況です(表2-6)。
このことから、おそらく脳・心臓疾患の労災認定には残業時間を重要視する一方で、精神障害の労災認定には、例えばパワハラ等の他の要因を重要視しており、残業時間については、それほど重要視していないのではないかと思われます。
出典:厚生労働省
出典:厚生労働省
国と企業のメンタルヘルスについての取り組み
国の取り組み
内容
前述のように、厚生労働省が労働者に行った健康状況の調査結果によれば、職場生活において強い不安や悩みやストレスを抱えている労働者は、実に6割を超えている状況にあります。
このため、国は平成12年8月に定めた「事業場における労働者の心の健康づくりのための指針」を見直し、労働安全衛生法第70条の2第1項に基づく指針として、平成18年3月、新たに「労働者の心の健康の保持増進のための指針」を策定しました(平成27年11月改正)。
具体的には、事業者が労働者の意見を聞き、産業医など産業保健スタッフ等の助言を得て、心の健康づくり計画を策定するもので、次の4つのメンタルケアを推進することを示しました。
①セルフケア
労働者自身がストレスや心の健康について理解し、自分のストレスを予防、軽減し、対応するものです。⇒ 要は自分自身が心の健康についてケアしなさいということです。
②ラインによるケア
労働者と日常的に接する管理監督者が、心の健康に関して職場環境等の改善や労働者に対する相談対応を行うものです。⇒これは、上司が部下の心の健康のケアに対応しなさいというものです。
③事業場内産業保健スタッフ等によるケア
事業場内の産業医などの事業場内産業保健スタッフ等が、事業場の心の健康づくり対策の提言を行うとともに、その推進を担い、また労働者及び管理監督者を支援するものです。
⇒こちらは産業医等が労働者の心の健康のケアをするものです。ちなみに常時 50 人以上の労働者を使用する事業場においては、事業者は、産業医を選任し、労働者の健康管理等を行わなければならないことになっています。
④事業場外資源によるケア
事業場外の機関及び専門家を活用し、その支援を受けるものです。
⇒こちらは、このサイトで紹介している心療内科の医師等を活用して労働者の心の健康のケアをするものです。
出典:厚生労働省
また、国は職場におけるメンタルヘルス対策について、平成 25 年度を初年度とする第 12 次労働災害防止計画において、「メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を 80%以上とする」という目標を定め、メンタルヘルス対策を重点的に推進しています。
さらに平成 26 年 6 月には、労働安全衛生法を改正し、事業者に労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)、医師による面接指導の実施及び事後措置の実施(以下「ストレスチェック制度」とい う。)を義務付け、平成 27 年 12 月 1 日から施行しました。
今までの国の施策
職域におけるメンタルヘルス対策に関する国の施策の主な経過は、次のとおりです。
年月日 | 施策の内容 | 備考 |
昭和60年度 | メンタルヘルスケア研修((財)産業医学振興財団。昭和61〜63年度に全国で研修会) | 昭和59年2月の初めての過労自殺労災認定が端緒 |
昭和63年 | 労働安全衛生法の改正に基づき「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」公示 | 9月1日健康保持増進のための指針公示第1号 |
平成7〜11年度 | 労働省の研究班が作業関連疾患(ストレス)について調査研究 | |
平成11年9月 | 心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について→平成23年廃止 | 9月14日付基発 第544号通達 |
心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針の運用に関しての留意点等について | 9月14日付 事務連絡第9号 | |
精神障害に係る自殺の取扱いについて | 9月14日付基発 第545号通達 | |
平成12年8月 | 事業場における労働者の心の健康づくりのための指針→平成18年に労働安全衛生法に基づく指針の策定により廃止 | 8月9日付基発 第522号通達 |
平成14年3月 | 職場における自殺の予防と対応(中央労働災害防止協会の委員会、平成22年8月改訂) | 公表資料 |
平成16年1月 | 地域におけるうつ対策検討会報告書 | |
平成16年8月 | 過重労働・メンタルヘルス対策の在り方に係る検討会報告書 | |
平成16年10月 | 心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き(平成24年7月改訂) | 公表資料 |
平成16年12月 | 労働政策審議会が「今後の労働安全衛生対策について」を建議 | |
平成17年11月 | 労働安全衛生法改正(面接指導の義務化ほか) | 平成18年4月(50人以上)と平成20年4月(50人未満)施行 |
平成18年3月 | 労働者の心の健康の保持増進のための指針 →平成27年11月に改訂 | 事業場における労働者の健康保持増進のための指針第3号 |
平成19年12月 | 労働契約法制定 | 平成20年3月施行 |
平成20年10月 | 各都道府県にメンタルヘルス対策支援センターを設置→平成26年4月「産業保健活動総合支援事業」に一元化されたことで事業終了 | |
平成21年3月 | 「当面のメンタルヘルス対策の具体的推進について」通達→平成28年4月の通達により廃止 | |
平成21年4月 | 心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針の一部改正について →平成23年の「心理的負荷による精神障害の認定基準」により廃止 | 4月6日付け基発第0406001号通達 |
平成21年10月 | 働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「こころの耳」を開設 | |
平成22年5月 | 労働基準法施行規則の一部を改正する省令にて精神障害が業務上疾病として明記 | 平成22年5月7日厚生労働省令第69号 |
平成22年9月 | 「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」の報告書取りまとめ | |
平成22年12月 | 労働政策審議会が「今後の職場における安全衛生対策について」建議 | |
平成23年10月 | 「産業保健への支援の在り方に関する検討会」報告書の取りまとめ | |
平成23年12月 | 「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」を国会に提出→平成24年11月廃案 | |
平成23年12月 | 心理的負荷による精神障害の認定基準について | 12月26日付け基発1226第1号 |
平成24年1月 | 職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告 | 平成24年9月10日地発0910第5号・基発0910第3号 |
平成24年3月 | 職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ | |
平成24年7月 | 「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」の 周知における留意事項について | 7月6日付け基安労発0706第1号 |
平成24年9月 | 職場のパワーハラスメント対策の推進について | 平成24年9月10日地発0910第5号・基発0910第3号 |
平成25年6月 | 「産業保健を支援する事業の在り方に関する検討会」報告書の取りまとめ | |
平成25年12月 | 労働政策審議会が「今後の労働安全衛生対策について」建議 | |
平成26年3月 | 「労働安全衛生法の一部を改正する法律案」を国会に提出 | |
平成26年4月 | これまでの3事業(地域産業保健事業、産業保健推進センター事業、メンタルヘルス対策支援事業)を一元化し「産業保健活動総合支援事業」を開始 | 産業保健総合支援センター、地域窓口(地域産業保健センター)の提供する各種支援サービス(独立行政法人労働者健康福祉機構) |
平成26年6月 | 「労働安全衛生法の一部を改正する法律」が公布 | 平成27年12月施行 通達(平成26年6月25日付け基発第0625第4号) |
平成27年4月 | 改正労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」に関する省令・告示・指針 | |
平成27年11月 | 「心理的な負担の程度を把握するための検査及び面接指導の実施並びに面接指導結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(ストレスチェック指針)」改正 | |
平成27年11月 | 「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」改正 | |
平成27年11月 | 「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」改正 | |
平成27年11月 | 「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」改正 | |
平成28年4月 | 「ストレスチェック制度の施行を踏まえた当面のメンタルヘルス対策の推進について」通達 | 平成28年4月1日ベース0401第72号 |
平成29年3月 | 労働安全衛生規則改正(産業医制度の見直し) | 平成29年6月施行 |
平成29年3月 | 「「過労死等ゼロ」緊急対策を踏まえたメンタルヘルス対策の推進について」通達 | 平成29年3月31日ベース0331第78号 |
平成30年7月 | 「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」公布(「労働安全衛生法」の改正を含む) | ※労働安全衛生法の改正は平成31年4日1日施行 |
平成30年8月 | 労働安全衛生規則改正(ストレスチェックの実施者に歯科医師・公認心理士を追加) | |
平成30年9月 | 「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」 | 平成31年4日1日適用 |
企業の取り組み
厚生労働省が発表した平成29年「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所のうち、労働者のストレスチェックを実施した事業所の割合は64.3%(平成28年は62.3%)となっています。
実施したストレスチェックの種類をみると、「労働安全衛生法(平成27年12月1日施行)に基づくストレスチェック」が93.8パーセントであり、「労働安全衛生法により実施した事業所独自のストレッチ」が6.2%となっています。